「あなたは、どうしたい?」
そう聞かれたとき、すぐに答えが出てこないことがあります。
仕事を続けたいのか、辞めたいのか。
誰かと一緒にいたいのか、少し離れたいのか。
何が嫌なのか、何を望んでいるのか。
考えているはずなのに、自分の気持ちがわからない。
誰かに相談すると、その人の意見には「そうかもしれない」と思えるのに、ひとりになると、また分からなくなることもあります。
自分の中に気持ちがないのではなく、いくつもの思いや考えが重なって、どれが自分の感覚なのか見えにくくなっていることがあります。
ここでは、すぐに答えを出すことよりも、今、自分の中に何があるのかを少しずつ見ていきます。
「どうしたい?」と聞かれると、急に言葉が止まる
自分の気持ちがわからないとき、何も考えていないわけではないことがあります。
むしろ、たくさん考えていることがあります。
「どちらを選ぶのが正しいのだろう」
「あとで後悔しないだろうか」
「相手はどう思うだろう」
そんなことを考えているうちに、「私はどう感じているのだろう」という部分だけが見えにくくなることがあります。
人の気持ちは分かるのに、自分の気持ちは分からない
相手が何を望んでいるのか。
何を言えば喜ぶのか。
どうすればその場がうまく収まるのか。
そうしたことには、すぐ気づける方がいます。
けれど、自分について聞かれると、急に答えが出てこない。
長い間、周りの人の気持ちや状況を先に考えてきた人ほど、自分の感覚に意識を向ける時間が少なくなっていることがあります。
その場では「大丈夫」と思ったのに、あとから苦しくなる
頼まれたときには「いいよ」と答えた。
誘われたときにも、その場では特に嫌だとは思わなかった。
ところが、家に帰ってひとりになると急に疲れたり、腹が立ったり、「本当は行きたくなかったのかもしれない」と気づいたりすることがあります。
その場では相手や状況に意識が向いていたために、自分の気持ちが少し遅れて見えてくることがあります。
あとから出てきた気持ちも、自分の中にあった大切な感覚の一つです。
自分の本音が、見えにくくなっているとき
「本当の気持ちを見つけなければ」と思うほど、かえって分からなくなることがあります。
そもそも、人の気持ちはいつも一つとは限りません。
好きだけれど、離れたい。
辞めたいけれど、不安。
会いたいけれど、疲れる。
腹が立っているけれど、分かってほしい。
一見矛盾するような気持ちが、同時に存在することもあります。
「正しい答え」を先に探している
何かを決めようとするとき、「普通はどうするのだろう」「どちらが正しいのだろう」「間違った選択をしたくない」と考えることがあります。
それは、これからを考えるうえで必要なことでもあります。
ただ、「正しいかどうか」を考えることと、「自分はどう感じているか」を確かめることは、少し違います。
正しさを探すことに意識が向き続けると、自分の気持ちが後ろに隠れてしまうことがあります。
相手の反応を先に考えている
「これを言ったら傷つくだろうな」
「機嫌を悪くするかもしれない」
「嫌われるかもしれない」
そんな思いが先に出てくると、自分の気持ちを感じる前に、相手がどう受け取るかを考え始めることがあります。
人との関係を大切にしてきたからこそ身についた関わり方でもあります。
ただ、相手の表情や反応を確認することが続くと、自分が何を感じているのかが分かりにくくなることがあります。
考えれば考えるほど、自分から遠ざかることもあります
自分の気持ちがわからないと、「もっと考えれば答えが出るはず」と思うことがあります。
あのとき自分はどう思っていたのか。
相手の言葉にはどんな意味があったのか。
どちらを選べば後悔しないのか。
けれど、感情には計算問題のような一つの正解があるとは限りません。
考え続けることで情報は増えているのに、自分の気持ちはますます分からなくなることがあります。
「どうすべきか」と「どう感じているか」を分けてみる
たとえば、「この仕事は続けた方がいい」と思っていることと、「本当はもう疲れている」と感じていることは、同時に存在できます。
「家族だから大切にしたい」という考えと、「今は少し離れたい」という気持ちも、どちらか一方を消す必要はありません。
考えと感情をすぐ一つの答えにまとめず、別々に置いてみると、自分の内側が少し見えやすくなることがあります。
小さな感覚の中に、気持ちが表れていることもある
「好きか嫌いか」「続けるか辞めるか」と大きく考えると、答えが出ないことがあります。
そんなときは、もう少し小さな感覚に目を向けてみます。
この人と話したあと、少しほっとした。
この予定を考えると、気が重くなる。
断ったあと、不安はあるけれど少し楽になった。
それだけで結論を出す必要はありません。
けれど、こうした小さな感覚を拾っていくことが、自分の気持ちを知る手がかりになることがあります。
「本当の気持ち」を一つに決めなくてもいい
自分の気持ちを知ろうとすると、「どれが本当なのだろう」と考えたくなります。
離れたい気持ちもある。
それでも寂しい。
腹が立っているけれど、大切でもある。
そのすべてが、そのときの自分の中にある気持ちかもしれません。
人の心は、一つの言葉できれいに説明できるものばかりではありません。
矛盾した気持ちのどちらかを消すのではなく、「自分の中には両方ある」と分かることで、初めて見えてくることがあります。
そして、気持ちが分かったからといって、すぐに行動を決める必要もありません。
感じることと、どう行動するかを決めることも、分けて考えることができます。
自分の気持ちを知ることは、自分で選ぶことにつながっていきます
自分の気持ちが見えてくると、すべてが思い通りになるわけではありません。
相手との関係も、仕事の事情も、家族の状況もあります。
「本当は嫌だったけれど、今回は引き受けよう」
「不安はあるけれど、こちらを選びたい」
「相手を大切にしたい。でも、この部分は譲りたくない」
そんなふうに、自分の気持ちを知ったうえで選べることがあります。
周りに合わせることがあっても、自分でそうすると決めたのか、自分の気持ちが分からないまま流されたのかでは、心に残るものが少し違います。
自分の感覚が見えてくることは、いつでも自分の希望を通すことではありません。
自分もそこにいる状態で選ぶこと。
その感覚を少しずつ取り戻していくことにつながります。
カウンセリングでは、答えを決める前の時間も大切にします
「どうしたらいいですか」
カウンセリングの中で、そんな言葉が出てくることがあります。
けれど、その答えを急いで決めるより先に、今の状況を一緒に整理していくことがあります。
何が起きているのか。
そのとき、どんな気持ちになったのか。
頭ではどう考えているのか。
誰のことを気にしているのか。
何が怖いのか。
本当は何を大切にしたいのか。
一つずつ分けていくと、最初は「分からない」としか言えなかったものに、少しずつ輪郭が出てくることがあります。
カウンセラーが「あなたの本音はこれです」と決めるのではなく、お話を伺いながら、ご自身の中にあるものを一緒に見ていきます。
そして最後に何を選ぶのかは、その方自身が決めていくことを大切にしています。
「分からない」のまま、話し始めても大丈夫です
カウンセリングを受ける前に、自分の気持ちを整理しておく必要はありません。
「何がつらいのか、自分でもよく分からない」
「どうしたいのかを聞かれると困ってしまう」
「いろいろ考えているけれど、まとまらない」
そんなところからお話しいただけます。
言葉にしてみて初めて、「私はあのとき悲しかったんだ」「本当は嫌だったんだ」「まだ決めたくなかったんだ」と気づくこともあります。
自分の気持ちがわからないときは、無理に一つの答えを見つけるより、今の自分の中にあるものを少しずつ確かめていく。
その時間をご一緒できればと思っています。
ご相談は、心理カウンセラー柴垣友佳里がお受けしています。
