大切な人が亡くなった。
その事実を頭では分かっていても、心の中では、まだどこかにその人がいるように感じることがあります。
ふと名前を呼びそうになる。
いつもの場所に姿を探す。
「これを話したら、何と言うだろう」と考える。
そして次の瞬間に、もう会えないことを思い出す。
死別の悲しみは、亡くなった直後だけに訪れるものとは限りません。
葬儀やさまざまな手続きが終わり、周りの日常が戻り始めてから、深く感じることもあります。
悲しいのに涙が出ないこともあれば、何でもない瞬間に急に涙があふれることもあります。
亡くなった方との関係や、亡くなった経緯、それまで一緒に過ごしてきた時間によって、心に現れるものも一人ひとり違います。
ここでは、死別のあとに起こる心の動きを、一つの形に当てはめずに見ていきます。
亡くなったことを分かっていても、心が追いつかないことがあります
死別の直後は、悲しみより先に、現実的なことをしなければならない場合があります。
連絡をする。
葬儀を行う。
人に会う。
書類を整理する。
家族のことを考える。
目の前のことを進めている間は、自分でも驚くほど動けることがあります。
「まだいるような気がする」と感じる
いつもの時間になると帰ってくる気がする。
電話をかければ声が聞けるような気がする。
家の中で、その人の気配を探してしまう。
長く一緒に過ごした人ほど、その人がいることは日常の一部になっています。
その日常が突然なくなっても、心の中の時間まで同じ速さで切り替わるわけではありません。
少しずつ、「ここにいた」という感覚と「もう会えない」という現実が重なっていくことがあります。
何でもない日常の中で、急に悲しみが戻ってくる
買い物をしているとき。
テレビを見ているとき。
道を歩いているとき。
その人が好きだったものを見たり、一緒に行った場所を通ったりした瞬間に、突然悲しみが押し寄せることがあります。
命日や誕生日、季節の行事だけではありません。
「この場面には、いつもあの人がいた」
そんな日常の小さな記憶が、喪失をあらためて感じさせることがあります。
死別のあとに現れるのは、悲しみだけではありません
大切な人を亡くしたとき、「悲しいはず」と思うことがあります。
けれど実際には、心の中にいくつもの感情が一緒に存在することがあります。
寂しさ。怒り。
後悔。不安。
安堵。悔しさ。
感謝。罪悪感。
自分でも説明しにくい気持ちが混ざることもあります。
怒りが残ることもあります
「どうして逝ってしまったの」
「もっと生きていてほしかった」
「なぜこんなことになったのだろう」
亡くなった人自身や、医療、家族、自分、あるいは出来事そのものに怒りを感じることがあります。
大切に思っていたからこそ、失ったことへの強い怒りが生まれることもあります。
ほっとした気持ちに戸惑うこともあります
長い介護や看病が続いていた場合、亡くなったあとに、悲しみと一緒に安堵を感じることがあります。
苦しそうな姿をもう見なくていい。
長く続いていた緊張が終わった。
自分自身もようやく眠れる。
そんな気持ちが出てきたあと、「こんなことを感じていいのだろうか」と自分を責めることがあります。
悲しみと安堵は、一方を感じたらもう一方が消えるものではありません。
両方が同時に心の中にあることもあります。
「もっと何かできたのでは」が心に残るとき
死別のあと、亡くなる前のことを何度も振り返ることがあります。
もっと話を聞けばよかった。
もっと会いに行けばよかった。
あのとき病院へ連れて行っていたら。
違う言葉をかけていたら。
過ぎた時間を何度もたどりながら、「自分に何かできたのでは」と考え続けることがあります。
けれど、そのときの自分には、そのとき分かっていたこと、そのときできることがありました。
今だから見えることと、当時の自分が知っていたことは同じではありません。
それでも後悔が残るときには、「後悔しないようにしよう」と急ぐより、その思いの中に何があるのかをゆっくり見ていくことがあります。
「もっと一緒にいたかった」
「大切にしたかった」
「助けたかった」
後悔の奥に、その人への思いが残っていることもあります。
周りの日常が戻るほど、自分だけ取り残されたように感じることがあります
亡くなった直後には、周囲の人が気にかけてくれることがあります。
けれど、時間が経つと、それぞれの日常へ戻っていきます。
自分の生活も、外から見れば以前と同じように動き始めます。
仕事へ行く。
買い物をする。
人と話す。
笑うこともある。
それでも心の中では、「あの人がいない」という事実がずっと続いています。
故人のことを話せる相手が少なくなっていく
最初の頃は話を聞いてくれた人にも、いつまでも同じ話をしてはいけないように感じることがあります。
「もう時間が経ったから」
「いつまでも悲しんでいると思われそう」
そうして、少しずつ故人について話さなくなることがあります。
けれど、本当はまだ話したいことがある。
一緒に過ごした日のこと。
亡くなる前のこと。
今でも思い出すこと。
死別のあとに感じる孤独には、「その人がいない」という寂しさだけでなく、その人のことを話せる場所がなくなっていく寂しさもあります。
元気になることに、寂しさや罪悪感を感じることもあります
少し笑えるようになった。
出かけたいと思った。
何かを楽しめた。
そんな自分に気づいたとき、ほっとする一方で、寂しさを感じることがあります。
「私だけ日常に戻っていいのだろうか」
「あの人を忘れていくようで怖い」
悲しみが少し薄れることと、その人を大切に思わなくなることは同じではありません。
故人を思い出しながら、新しい日常を生きていくこともできます。
亡くなった人との関係が、心の中から消えてしまう必要もありません。
思い出したり、心の中で話しかけたり、「あの人ならどうするだろう」と考えたりしながら、その人とのつながりを自分なりの形で持ち続ける方もいます。
亡くなった人との関係が複雑だったとき
死別した相手との関係が、いつも穏やかだったとは限りません。
分かり合えなかった。
傷つけられたことがある。
距離を取っていた。
言いたかったことを言えないまま亡くなった。
そんな関係のまま死別を迎えることもあります。
その場合には、悲しさだけでなく、怒りや悔しさ、解決できなかった思いが残ることがあります。
「亡くなった人のことを悪く思ってはいけない」と感じて、気持ちを言葉にできなくなることもあります。
けれど、亡くなったことで、それまでの関係の中にあった感情まで一つにまとめる必要はありません。
好きだったところも、傷ついたところも、もっと話したかったことも、その人との関係の一部です。
死別の悲しみ(グリーフ)は、一人ひとり違います
大切な人を失ったあとに生じるさまざまな心や身体の反応は、「グリーフ」と呼ばれることがあります。
涙が止まらない人もいれば、ほとんど泣かない人もいます。
人に会いたくなる人もいれば、一人で過ごしたくなる人もいます。すぐに仕事へ戻れる人もいれば、日常生活そのものが難しくなる人もいます。
どのくらいで気持ちが変化するのかにも、決まった時間はありません。
大切なのは、「いつまで悲しんでいるのか」と時間で測ることより、今、自分の中で何が起きているのかを知ることです。
心や身体のつらさが強くなっているときは
死別のあとには、眠れない、食欲が落ちる、集中できない、身体が重いなど、心だけでなく身体にも変化が現れることがあります。
日常生活を送ることが難しい状態が続いているときや、強い不安や落ち込みが続いているときには、医療機関など専門的な支援につながることも大切です。
また、「生きていることがつらい」「自分もいなくなりたい」という気持ちが強くなっているときには、一人で抱え続けず、医療機関や公的な相談窓口など、すぐにつながれる支援を利用してください。
カウンセリングと医療、それぞれの役割を考えながら、ご自身に必要な支えを選んでいくことができます。
死別の悲しみを、誰かに話してみるということ
死別についてカウンセリングで話すとき、無理に気持ちを整理してから来ていただく必要はありません。
「何を話したらいいか分からない」
「亡くなったことをまだ受け止められない」
「同じことばかり考えている」
そんなところからでもお話しいただけます。
亡くなった人との時間を、一緒にたどることがあります
亡くなるまでの出来事だけでなく、その方とどんな時間を過ごしてきたのかをお聞きすることがあります。
どんな人だったのか。
どんなことを一緒にしたのか。
どんな言葉を覚えているのか。
話していく中で、悲しみと一緒に、これまで気づいていなかった自分の思いに出会うことがあります。
後悔や怒りも、そのまま言葉にしていきます
「もっとできたはず」という思いも、「どうして」という怒りも、そのまま話していただけます。
答えを出すことより、心の中に残っているものを一つずつ言葉にしていくことを大切にします。
これからの生活についても一緒に考えていきます
死別の悲しみを抱えながらも、日々の生活は続いていきます。
仕事、家族、人との付き合い、ひとりになった時間。
故人を忘れることを目指すのではなく、その人との時間を大切にしながら、これからの日常をどう過ごしていくのかを一緒に考えていきます。
まだ話せないことがあっても、そのままで
亡くなった人について、話したいこともあれば、まだ言葉にしたくないこともあると思います。
カウンセリングの時間の中でも、話せるところから少しずつで構いません。
悲しみを早く終わらせることよりも、その方が今抱えているものを、その方のペースで一緒に見ていくことを大切にしています。
大切な人がいなくなったあとも、その人と過ごしてきた時間は、自分の人生の中に残っています。
その時間を抱えながら、これからをどう生きていくのか。
まだ答えが見えないところからでも、お話しいただけます。
ご相談は、心理カウンセラー柴垣友佳里がお受けしています。
